エネルギーを無駄なく使う手法として新たに「スマートエネルギーネットワーク」という概念が台頭してきた。社会のエネルギー消費の半分を占める「熱」を有効活用しようというもので、力を入れているのはガス会社だ。太陽光など再生可能エネルギーの大量導入に向けて電力会社を中心に検討されている「スマートグリッド」(次世代送電網)に対抗し、次世代のエネルギーインフラの主役を争う可能性もでてきた。
■蓄電池は不要
東京ガスは今年度、スマートエネルギーネットワーク推進室を総合企画部の中に設けた。同部の笹山晋一マネージャーは「地域冷暖房で培ってきたノウハウを生かしたい」と話す。
地域冷暖房とは、ガスを使って電気と熱を生むコージェネレーションシステムやゴミ焼却場の廃熱などを活用する仕組み。熱エネルギーは暖房だけでなく、水が蒸発するときに気化熱として周囲の熱を奪う現象を利用すれば冷房に活用することも可能だ。
東ガスグループは、すでに100カ所以上で展開している。隣接した地域でエネルギーを融通すればさらに効率化できると見込む。
その先にあるのが、スマートグリッドとの接続だ。スマートグリッドには、出力の不安定な太陽光発電を補うために大量の大型蓄電池が必要とされるが、そうした蓄電池はまだ開発途上にある。スマートエネルギーネットワークと一体化すれば、すでに実用化されている技術でも有効で「晴れた日は太陽光発電を積極的に使い、雨の日は廃熱やコージェネを使う」(笹山マネージャー)ことが可能だ。
■整備進む欧州
地域冷暖房の活用で先進的な取り組みをしているのが欧州だ。パリでは、パリ熱供給公社が3カ所のゴミ焼却場、7カ所のボイラー、コージェネシステム2基で熱エネルギーを供給している。東京の山手線の内側とほぼ同じ面積の区域に445キロメートルの蒸気用パイプラインを敷設し、冬には市内の暖房需要の3分の1をまかなっているという。
欧州連合(EU)は、各国に法制度整備などを促すEU指令を通じてコージェネなどの活用を求めており、ドイツや英国では設置への補助制度やコージェネでつくった電気を電力会社が買い取る制度がある。
東京都内に当てはめれば、大手町や有楽町、霞が関などに地域冷暖房システムがあり、まだ廃熱を活用しきっていないゴミ焼却場もある。東ガスはこれらをネットワーク化すれば、「年間数十万トンの二酸化炭素(CO2)排出削減ができる」と見込んでいる。
■今夏にも実証
経済産業省は今夏にも、横浜市や大阪・京都・奈良の各府県にまたがる「けいはんな地区」などで効率的なエネルギー供給システム構築を実証する事業に着手する。スマートグリッドの技術開発が柱だが、ガスも活用する計画だ。横浜では東京電力と東京ガスなど、けいはんなでは関西電力と大阪ガスなどが参画する。
エネルギー市場で積年のライバルであるガスと電力がタッグを組む事例は珍しい。ただ、安定供給を至上命令とする電力会社は「自社以外からの電力は送電網に受け入れたくない」(業界関係者)のが本音だ。
関西電力の斉藤紀彦副社長は「太陽光発電の不安定さを補うためには出力調整をするのが最も経済的だ」としており、コージェネはCO2を排出することも指摘して活用には消極的だ。
大阪ガスの尾崎裕社長は「今あるインフラを有効活用すべきだ。送電網をどうやったらみんなで使えるか政府としても考えていってほしい」と送電網への食い込みを狙う。
将来のエネルギー供給の基盤作りをめぐって、電力VSガスの火花が散りそうだ。(粂博之)
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