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時効間近 警察庁長官銃撃事件で浮かんだ「容疑者」の真贋(産経新聞)

 平成7年3月、国松孝次警察庁長官(当時)が東京都荒川区の自宅マンション前で銃撃された事件は、公訴時効まで残り3カ月となった。この15年近くの捜査過程では、警視庁公安部が描く「オウム犯行説」と、警視庁刑事部が浮かび上がらせた「ある男」が捜査線上に導き出されてきた。「呪(のろ)われた事件」「最大の闇」−。捜査関係者がこう評する事件は間もなく終焉(しゅうえん)を迎えようとしている。真相はどこにあるのか。そして「容疑者」の真贋(しんがん)は−。(荒井敬介)

■警察首脳に“直訴”した男

 国松長官から数えて6人目の警察庁長官となる安藤隆春現長官あてに、「要望書」と題する書面が届いた。書面の日付は公訴時効まで残り約4カ月と迫った11月24日。差出人は自らを「狙撃手」として、捜査当局や報道機関に事件への関与を認めている男だ。同様の要望書は警視庁の米村敏朗警視総監にも送られた。

 男は事件が解決していないことに対していらだちをみせるとともに、自らの見解を述べている。

 少々長くなるが、要望書の一部を引用する。

 《本件の捜査におけるこれまでの失敗は、捜査の指揮にあたった者がオウム犯行説に固執しすぎたことに起因しています。ある限られた範囲を徹底的に探しても目的物が見つからなければ、初めからなかったものと判断するのが常識なのですから、オウム教団に対して多くの人員と長い歳月を費やして捜査を尽くした段階で方向転換を考慮するべきでした》

 《まず申し上げておきたいのは、警視庁の私に対する事情聴取は、初期には捜査一課員のみによっていましたが、その後は公安部員も加わる南千住署の捜査本部からの派遣となり、出張回数は20回以上、延べ日数は60日に及ぶほどになっていることです》

 《それに対して、私も応分の協力をしましたし、そのうちには私自身が思い及ばなかった事実まで発掘されているくらいで、その結果、私自身のものを含め関係者の供述書など膨大な量の証拠資料が集まっていますから、捜査本部はほぼ十分な成果を挙げたと評価されます。私にしてみれば、これで立件できなければ、およそ事件捜査など成り立つまいと言わざるを得ません》

 文面からは、男は自らを逮捕するよう“直訴”しているようにも読み取れる。だが、その男の思いは事件を捜査する警視庁公安部には届いていない。公安部の描くターゲットは別のところにあるためだ。

■「犯行はオウム」で一貫する公安部

 「当時の時系列的な流れや現場付近での目撃情報から総合して判断すれば、犯行はオウム以外にあり得ない。もし違うのであれば、今の職を辞任してもいいぐらいの自信はある」

 警視庁幹部はオウム犯行説を崩さない。

 確かに、事件が発生した平成7年3月は、20日に地下鉄サリン事件が発生。日本国中がオウムへの恐怖におびえ、その言動に誰もが注目した。22日には山梨・上九一色村(当時)の教団施設に警視庁の捜査員が一斉捜索に乗り出した。

 長官銃撃事件は警察当局がオウムとの対決姿勢を鮮明に打ち出した直後の時期だった。そのことから、オウムには捜査撹乱(かくらん)のために事件を起こしたという明確な動機がある、というのが公安部がオウム犯行説をとる根拠だ。

 これだけではない。公安部がオウム犯行説を唱える主な根拠を以下に挙げる。

 (1)事件前日の午後、国松長官が住むアクロシティで信者が「警察国家」と題するビラを配布。長官宅にも配布され、事件発生直前に長官の妻が秘書官にこのビラを渡していた

 (2)事件翌日に信者が八王子市など都内数カ所で配布した事件に関するビラの原案とされる元幹部のメモに、「弾丸が何かおかしい」との記述があった。記述時点では詳細は報道されていなかったが、弾丸は殺傷能力を高めるために先端がくぼんだ「ホローポイント型マグナム弾」だった

 (3)元幹部と酷似する男が付近を自転車で走行する姿が複数目撃された

 (4)元信者で元警視庁巡査長の男(44)の供述内容から、少なくとも元巡査長が下見していたことは間違いないこと

 (5)事件の1時間後に教団幹部が都内の報道機関に電話をかけ、次のターゲットとして警視総監らの名前を挙げて教団への捜査をやめるように脅迫した

 (6)現場に遺留された韓国10ウォン硬貨から元信者の男(38)のDNAが検出された

 (7)元巡査長が事件当日に着ていたコートに、拳銃を発射した際にできる「溶融穴」があった。鑑定の結果、事件で使用された銃弾の火薬成分と矛盾しないとの結論を得た

 これらが公安部がオウムの犯行と判断する材料だ。科学捜査や状況証拠、登場する信者の人間関係から推定し、公安部は教団内で「武闘派」として知られた元最高幹部の男を指揮役とする構図を描き捜査を進めている。

■「パイソンを買った男」を割り出した捜査1課

 冒頭の「要請文」に戻る。男は公安部のオウム犯行説に対して猛然と批判、自らを捜査するよう主張している。なぜか。

 それには公安部でなく刑事部捜査1課の捜査を振り返る必要があるが、その前に、公安警察と刑事警察の捜査手法の違いについて触れなくてはならない。

 テロやゲリラ事件を担当する公安警察は、思想的な背景から組織と個人を調べ、尾行などによって組織の実態解明を進める。一方で刑事警察では聞き込みや物的証拠に基づき、不特定多数の中から犯人を絞り込んでいく。捜査1課は別事件の捜査過程で、1人の男の存在を浮かび上がらせた。15年夏のことだった。

 それが「要請文」を送った男、中村泰受刑者(79)=別の強盗殺人未遂事件で無期懲役が確定=だ。

 中村受刑者が使用していた三重県名張市のアジトを捜索した警視庁などの捜査員は、長官事件に関する新聞スクラップや事件を想起させる詩を多数発見。射撃能力が高いことから、捜査1課は同年7月に公安部の長官事件捜査本部に情報提供した。だが、捜査本部は「関連性はない」と一蹴(いっしゅう)した。

 その後、中村受刑者は捜査1課の捜査員による度重なる事情聴取に事件への関与を認めた上で、犯行について詳細に供述した。捜査1課で裏付け捜査した結果、次のようなことが判明した。

 (1)1980年代後半に米国で「コバヤシ・テルオ」の偽名で、事件で使用された拳銃と同型のコルト社製38口径「パイソン」を購入。ホローポイント弾も購入していたことが判明

 (2)犯行に使用したと供述した自転車の放置場所が、実際の放置自転車の発見場所と同一

 (3)事件から約1時間後に、拳銃を保管していた東京・西新宿の貸金庫の開扉記録が残り、犯行後に拳銃を格納した可能性がある

 (4)警察内部でしか知られていなかった、事件2日前に警察官2人が長官宅を訪問していることを把握しており、下見をしていた可能性が高い

 (5)アジトから韓国10ウォン硬貨が発見された

 (6)関係先で押収したバッグから拳銃を発射した際の硝煙反応があった

 (7)侵入して長官の住所を把握したという警察庁警備局長室の配置をほぼ正確に記憶していた

 このうち、(1)については、その後の捜査で販売した人間についても特定。中村受刑者がパイソンを購入したことは間違いないことが分かった。

 「パイソンは日本の犯罪史上で使用された形跡はない。ホローポイント弾もオウムが武装化する前にすでに製造中止となっていた。凶器に関する捜査では刑事部に分がある」

 捜査1課経験が長い警視庁OBの見方だ。

■浮上した「容疑者」と欠ける「決定打」

 公安部と刑事部の捜査で浮上した異なる「容疑者」。現在は中村受刑者を調べた捜査1課の捜査員が、公安部の捜査本部に組み入れられて捜査にあたっている。どちらが真実に迫っているのか。

 「中村受刑者の供述調書を読み『おっ』と感じ、オウムに関した資料を見ると『やはりオウムか』と思う。そして再び中村受刑者の調書を読み返すと『こっちかな』というように、どちらかに傾きかけては、より戻されてというのが正直な感想だ」

 元公安部幹部は導かれた2つの「容疑者」について、このように表現した。

 実際、オウム説、中村説ともに説得力のある根拠が示されている。だが…。

 「それぞれに足りないものは『決定打』だ」と警視庁幹部は指摘する。

 オウムに関すれば、過去の重大事件を認めてきた教団幹部たちが一様に長官事件だけについては関与を一切認めていない。公安部は16年7月、教団幹部3人を逮捕したものの、嫌疑不十分で不起訴となった事実が、高いハードルとして残っていることも捜査を難しくさせている一因だ。

 一方で、中村受刑者については、現場の壁にあった繊維痕と火薬痕から推定される犯人の身長172・3〜176・7センチと合致しないことや、現場と直接結びつく物証がないことが“弱点”と指摘する声もある。

 真実はどこにあるのか。

 「『落としどころ』や『痛み分け』という表現で終わる捜査であってはならない。時効まで約3カ月と残された時間は極めて短いが、刑事警察と公安警察がそれぞれのメンツにこだわらずに、事件を徹底して解明するべきだ」

 刑事、公安両部で捜査経験のある警視庁OBはこう力説した。

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by cretan | 2010-01-04 18:37
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初めて花を植えてみる。


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